薬石花房 幸福薬局
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おいしい食べものが周囲にあふれ、運動量が少なくても生活できる現代では、ちょっと油断するとすぐ体重が増えてしまいます。
ふと気がつけば若いころの体型はどこへやら。肥満人口は年々増え続け、日本の成人の約3割が肥満であるとの2001年度調査結果もあります。

身長158cmで体重が63kgという29歳の女性がいました。学生時代は54kgくらいでしたが、就職してから体重がじわじわと増え、気がつけば63kgになっていました。みたところちょっと太ってるかなという程度ですが、彼女にしてみれば最大の悩みです。仕事の関係で夕食が遅く、職場のストレスもあってつい食べ過ぎてしまいます。逆に朝はあわただしくてジュースにくだもの程度ですますことが多く、昼は市販の弁当を短時間で食べることの多い日々です。外食が多く栄養のバランスが悪いことや間食が好きなこと、それに運動不足であることなどが原因になっているとはわかっているのですが、なかなか思い切った生活習慣の改善ができないで今日に至っており、漢方で何とかしたいとのことです。

まず言っておきたいことは、漢方で無理なくダイエットすることは可能ですが、楽してダイエット、というのはできないということです。漢方薬だけに頼るのではなく、生活習慣の見直しも同時に必要です。漢方を飲んでいるからと安心して食べすぎていては、せっかくの効果も現れません。そのあたりをまず見てみましょう。

動物は、食べられるときに食べて脂肪組織を蓄え、飢餓状態に備えます。食料がないときには脂肪をエネルギーに変えて生き延びるわけです。この本能的な機能は、人間の体にも備わっています。

飽食の時代といわれるここ50年程度の食べすぎ現象は、人類誕生の約200万年前からの時間の中では、まさについ最近の出来事です。私たちの体は、それ以前のままです。食べすぎた分は確実に脂肪として蓄えられるのが自然の営みなのです。食べすぎは、いけません。

ライフスタイルの変化も大きな要因です。とにかく体を動かさなくなりました。一日中座りっぱなしで仕事をする人も多いでしょう。交通機関の発達で生活の利便性は向上しましたが、そのぶん歩く量が少なくなりました。運動不足では、やせません。

以上の食べすぎと運動不足はダイエットの二大抵抗勢力です。しかしふつうに生活していると、ついつい食べ過ぎの運動不足になってしまうのは上記のとおりです。ダイエットの基本は、摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やすことです。入る量を減らして出る量を増やせばいいわけですよね。前者の代表が食習慣の改善、後者の代表が適度な運動と基礎代謝の向上です。そしていかに無理なく自然に生活習慣や体質の改善ができるかがポイントになります。

食事については、まずバランスよく適量を食べるのが基本。食事の量を極端に制限すると体脂肪だけでなく筋肉や内臓もやせてしまい、基礎代謝が減り、内臓機能も衰えて若々しさが失われていきます。極端な食事制限をするのではなく、適度な筋肉と若々しい内臓機能を維持しつつ余分な脂肪を減らしていくのが、きれいにやせる基本です。

基礎代謝について触れておきましょう。基礎代謝とは人が生命を維持するために必要なエネルギーです。活動せず、じっとしているときでも心臓を動かしたり内臓を働かせたりと体が消費しているエネルギーともいえます。この基礎代謝、実は20歳代前半をピークに年々低下していきます。つまり若いときと同じような食事を続けていると、間違いなく太るのです。また極端な食事制限をすると、体は少ないエネルギーで活動しようとするために基礎代謝が下がります。基礎代謝が下がると消費カロリーが減るわけですから、減量はできません。無理なダイエットがうまくいかないのはこのためです。

なお基礎代謝が一番多く使われるのは筋肉で、その次が肝臓です。漢方でダイエットが成功するのは、このあたり、つまり漢方薬に代謝をよくする働きがあるからです。詳しくはのちほどお話しますが、基礎代謝が高まると脂肪が燃えやすい、つまり太りにくい体に変身できます。

ダイエットに関して注意したいことは、いかにも簡単にできそうな安易なダイエット法に飛びつかないということです。ほとんどの場合、効果は一時的なもので、必ずリバウンドがあります。よくあるのは単品ダイエット。りんごやこんにゃく、ゆで卵ばかりを食べてやせようというものです。一時的に体重が減ることはあるでしょうが、栄養のバランスが悪いために体が自ら脂肪をためこみやすい体に変身し、体脂肪率が増えてしまいます。したがってリバウンドしやすいのが特徴です。肌荒れやむくみの原因にもなります。

急激なダイエットもよくありません。1週間で3kg、1ヶ月で10kgなどと体重が減ると、体の正常な機能に相当な負担がかかります。しかも体は少ない食事量に対応するために脂肪を蓄えるようになり、また少ない栄養で活動できるように基礎代謝を減らすようにもなります。ダイエットには逆効果です。おまけにホルモンバランスを失調させて生理不順や無月経を招いたり、肌の老化を早めたりと悪影響も出てきます。1ヶ月に1〜2kg程度のペースで減量するのが、リバウンドや老化などの弊害の少ない方法でしょう。

漢方ではダイエットを減肥といいます。ダイエットに対しても漢方の考え方は同じで、その人の症状や体質、体重が増えた原因などに応じてオーダーメイドの漢方薬を飲んでもらうのが基本です。なお中国旅行のおみやげや個人輸入のダイエット健康食品に○○減肥茶などと銘打った食品が見かけられますが、十分注意してください。どなたでも簡単にダイエットできるお茶や薬など、ありませんから。

漢方薬による肥満の改善は、太りやすい体質の改善に重点が置かれます。太りやすい体質というのは、多くの場合、五臓六腑のバランスの失調や機能低下に根本原因があります。そこで漢方薬でその部分を正常化することにより、太りにくい体質を築き上げることになります。

主なものとしては、まず消化器系の機能が低下して余分なものが体内に蓄積しやすい体質があります。疲れやすい人が多く、ぽっちゃりした感じの太りかたをしています。この場合は消化器系を立て直して代謝能力を上げ、体内の剰余物を排泄しやすい体を作ります。木香、砂仁、党参、白朮などの漢方生薬を用います。あるいは、気の流れが悪いために臓腑機能がうまく働かず、飲食物が体内に貯えられてしまう体質もあります。体が重だるく、ときに胸や脇がつかえる感じ、あるいは腹部の膨満感をともないます。蒼朮、神曲、柴胡、半夏、荷葉などの生薬が効果的です。いずれも体質からの改善となりますので時間がかかる場合もありますが、リバウンドが少ないのが漢方の特徴です。

先の女性の場合は、年齢的に低下しはじめた内臓機能、とくに肝臓の代謝機能を霊芝や柴胡などの生薬を用いて高め、同時に枳殻や厚朴などで気の流れを整えて余分なものを体に貯えにくい体質を作りました。もちろん食生活の改善や腹式呼吸の習慣づけなども同時に行ってもらい、約半年で8kg減量し、体重を55kgにまで戻しました。その後漢方薬の服用はやめてもらいましたが、体重のリバウンドは起こっていません。

最後に日常生活でのダイエットのポイントをまとめておきましょう。

1.摂取エネルギーが多くなりすぎないようにする−−とにかくゆっくり食べましょう。よくかんで食べるようにすれば、おのずと食事はゆっくりになります。私たちは実際におなかがいっぱいになってから20分ほどしてようやく満腹感を感じるようにできています。つまりその20分間に食べたものはすべて食べすぎということになります。ゆっくり食事をすれば食べすぎる心配も少なく、腹八分程度で満腹感を自然に感じるようになるものです。間食も控えめにするといいでしょう。

2.体に皮下脂肪を貯めようとさせない−−前述のように、食事量が減ると人間の体は脂肪を蓄積して飢餓に備えようとします。極端な食事制限はやめましょう。また一日の中では夜に食べものの吸収率が高くなりますので、夕食は軽めにし、寝る前の食事は控えるなどの工夫も有効です。また朝食をぬくと昼食の吸収率が上がり、太る原因になります。朝食は必ずしっかり食べましょう。あさ摂取したカロリーは主にその日の活動に使われますので、余分な皮下脂肪として蓄積されません。

3.基礎代謝を下げない−−そのためには筋肉や内臓を衰えさせないことが重要です。バランスよく適量を食べることと、適度な運動が要でしょう。運動については、歩くことが一番のお勧めです。少し歩幅を広めに姿勢を正してさっさと30分から1時間、週に1〜2回歩くだけでもずいぶん違ってきます。続けられそうなスポーツや、仲間と一緒に楽しめる運動を見つけるのもいいでしょう。もうひとつ、深い腹式呼吸も大切です。体内で脂肪を燃焼させるためには十分な酸素が必要ですから。

4.目標達成のために自己管理をする−−簡単な方法としては、毎日体重を量ることです。ついつい気がゆるみがちなダイエットも、体重計と向き合うことで継続できます。記録したりグラフにしたりすりと、なお効果的です。

しかしそこまでしてダイエットしなくてもいいのではないか、という人もいるでしょう。ちょっと太ったくらいでは別に病気ともいえませんからね。でも太っていることは万病のもとです。肥満の人のほうが糖尿病にかかる確率は5倍、不妊症は3倍、胆石も3倍、高血圧は2.5倍、心臓病は2倍に増えるという統計もあります。美容と将来の病気の予防のために、体重の自己管理をおこたらないようにしましょう。

なお体重の増加には、本項でお話した脂肪の蓄積以外に水分の貯留があります。脂肪の蓄積プラス水分の貯留イコール体重の増加です。余分な水分の排除については「むくみ」の項を参考にしてください。

西洋医学での肥満症療の基本は食事療法と運動療法となります。必要に応じて食欲抑制剤が用いられます。脳の食欲中枢に直接作用して食欲を減退させるマジンドール製剤(サノレックス)が臨床で使われることがありますが、あくまでも食事療法や運動療法の補助としての使用にとどまります。投薬が中止されると食欲は元に戻ります。

消化器系の機能低下が根本にみられるときは香砂六君子湯や平胃散、胃苓湯など、気の流れが停滞しているタイプには越鞠丸や疏肝飲などが用いられます。また中年以降の肥満に九味半夏湯、高脂血症をともなう場合に軽身一号方、その他に体可軽方、荷朮湯など漢方の現場で実績をあげている処方が多種あります。ひとりひとりの太っている原因に応じて服用するといいでしょう。

なお、以下のエッセイ・ショートストーリーも参考になさって下さいませ。

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