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アトピーには漢方が効く、といわれることがあります。実際、私のところでもアトピー性皮膚炎をあつかうケースは多く、患者数でいうと上位3位以内に入ります。

漢方がいいといわれる理由は、西洋医学との治療法の違いにあります。西洋医学では皮膚炎やかゆみなどの症状を抑える治療はできますが根本治療はできません。したがって治療を不用意に中断すると再発を繰り返します。一方、漢方ではアトピー体質そのものから治療します。そのため、症状が改善されると再発することが少ないのです。薬の副作用やリバウンドの点でも漢方のほうが安全です。ただしアトピー性皮膚炎は漢方でも西洋医学でも、そう簡単に治療できるものではありません。特効薬はありません。大切なのは、両方の医学の特徴を十分理解して治療に当たること、食事などの生活習慣を見直すこと、そしていかにもすぐに効きそうな無責任な情報に左右されないこと−−の3点です。

アトピー性皮膚炎の患者には、皮膚の乾燥とバリア機構の低下がみられます。その、デリケートで敏感になっている皮膚に、ほこりや排気ガスが作用して炎症を引き起しています。

さらに悪いことに、炎症そのものがバリア機構をさらに低下し、またかゆみによって皮膚を掻きこわすことによりバリア機構がさらに破壊され、皮膚炎が悪化します。この悪循環を断たないと、アトピー性皮膚炎はなかなか治りません。

ちなみにダニに対するスクラッチ・パッチテストをすると、正常人でも3割の人が陽性となります。しかしバリア機構が働いているため、皮膚炎にならずに暮らしているのです。ということは、アトピー性皮膚炎の根本的治療のために必要なのは、次の3点に集約されそうです。
  1. 現状の皮膚炎の軽快(=悪循環を、断つ)
  2. 悪化因子の除去
  3. 体質改善による再発防止と根本治療

  1. 現状の皮膚炎の軽快(=悪循環を、断つ)のためには、炎症やかゆみを抑える力の強い西洋医薬が第一選択でしょう。かゆみか らの一時的開放による心の落ち着きや十分な睡眠を得るためにも必要です。副腎皮質ステロイド外用薬がその代表です。ただしよく知られているように、必要以上に強いステロイドを、しかもだらだらと長期にわたって塗っていると、将来副作用が出てきます。皮膚炎もさらに治りにくくなります。自分の将来のためです。細心の注意を払って使用してください。具体的にはコラム「アトピー治療、一長一短」をご覧ください。

  2. 悪化因子の除去とは、皮膚に悪さをする因子を遠ざけるということです。治療の途中でも、アトピー体質がある限り、デリケートな皮膚はハウスダストやダニの接触に敏感に反応し、皮膚炎を起こします。そこでまた悪循環が始まると、治療が長引き苦痛も増えます。ほこりやダニばかりでなく、チョコレートや動物性脂肪も要注意です。アトピー悪化因子を除去するために食生活の見直しや生活環境の改善が必須です。

  3. 体質改善による再発防止と根本治療には、漢方治療が一番です。漢方は、ひとりひとりの体質や皮膚炎の状態を詳しくみて、アトピー体質そのものを改善し、再発を防止することを目的とします。体の内側から、しっとりとした肌を作り、バリア機能の高い皮膚を構築する、そういう体質改善を漢方薬が推し進めてくれます。
いくつか例を挙げておきましょう。28歳の女性で、約10年前に東京で一人暮らしを始めたころからアトピー性皮膚炎が悪化しました。顔や首にも皮膚炎が生じていますが、仕事をしており人前に出ると気になるので、ステロイド外用薬を使っています。ステロイドは6年ほど前から使用しており、もう手放せない状態です。それでも顔や首は赤黒く、皮膚が厚くごわごわしており、一見してアトピーとわかる状態です。

このかたの場合は、仕事をしており、また女性であることもあり、ステロイドを使いながら漢方薬を始めることにしました。皮膚炎を今の状態から悪化させないまま体質を改善し、ステロイドの使用量を少しずつ減らしていく方針です。漢方薬は、皮膚にまで水分を運ぶ働きのある生地黄や麦門冬に、皮膚に浮いたように存在する熱を冷ますための地骨皮や牡丹皮などの生薬を煎じてもらいました。生活改善としては、大好きなチョコレートと牛乳を我慢してもらうようにしました。最初のうちは炎症をしずめるために黄ゴンや石膏などの生薬も服用してもらいました。

現在3年ほど経ちましたが、皮膚のごわごわもなくなり、赤黒かった色も消えました。すでに2年以上ステロイドを塗ることはほとんどなく、保湿剤として馬油のみを必要に応じて塗るだけでコントロールできる状態になりました。まだ乾燥や発汗、あるいは寝不足や過労時に少し皮膚がかゆくなりますが、漢方薬も当初よりもかなり少量の服用で済んでいます。

もうひとつ、子どもの例です。3歳の女の子です。この子は生まれてすぐに皮膚炎になり、ほっぺを中心に顔全体が赤くただれていたそうです。今では顔よりも肘や膝の内側がひどく、寝るときや夜中に無意識に掻くために出血も目立ちます。皮膚炎の出ていない背中などの皮膚も、ざらざらしています。

この子の場合は食欲に片寄りがあり、便が柔らかくねっとりしているなど、消化器系の問題もありましたので、おなかから丈夫にして皮膚を強くする方法をとりました。漢方生薬は参鬚尖や茯苓やヨク苡仁を飲んでもらいました。煎じ薬が苦くて飲みにくいので、煎じ液をゼリーにしてもらって子どもに食べさせるように言いました。

子どもの場合は大人よりも治りが早い場合が多く、この子も約1年で完全に治り、漢方薬も必要なくなりました。

またアトピー性皮膚炎は、職場の複雑な人間関係、多忙な生活、不安定な家庭環境、不規則な生活、食生活の乱れ、不安や悩みなどによっても悪化します。とくに子どもの場合は、家庭環境、さらに保護者自身のストレスにも敏感に反応して掻き始めたりするものです。子どものアトピーの場合は、そういう意味で、家族全体の協力が重要な鍵です。

繰り返しますが、アトピー性皮膚炎は漢方でも西洋医学でも簡単にいかない病気です。それだけに、いかにもすぐに効きそうな無責任な宣伝や情報が行き交います。悪気のない情報もあるのでしょうが、多くは効果のないものです。たとえばアトピーに効くということで1996年に流行したシジウム茶というのがありますが、翌年には取り扱う薬局はほとんどなくなりました。

さまざまな治療方法がありますが、あせらずに、自分の納得のいく方法で治療していただきたいと思います。基本的には、症状を緩和するための対症療法として西洋医薬を最小限使い、漢方薬の服用や生活習慣の見直しにより免疫力や自然治癒力を高めてアトピー性皮膚炎の根治を目指す、というのが現時点では良い方法かと思われます。

最後に、生活習慣の見直しのポイントについて、アトピー性皮膚炎の治療には欠かせないことですので、ここにまとめておきます
  • 風呂やシャワーで、皮膚についた汚れ・ほこり・汗・あか・ばい菌類を石鹸で洗い落とす。その際、熱すぎるお湯の使用は避け、ごしごしこすりすぎず、また石鹸は十分すすぎ落とす。

  • お風呂上りや寝る前などには、必要に応じて保湿対策をする。保湿剤はワセリン・プロペト・尿素・馬油・スクワラン・ホホバオイルなど多種あるので、患者自身が気に入ったものを使う。

  • ほこりの少ない環境を維持するために、こまめに掃除をする。

  • 動物性脂肪・チョコレート・インスタント食品は、あまり口にしないようにする。刺激物にも注意する。また食品添加物・農薬の影響にも、ある程度関心を持って食材を選ぶ。夜遅くの飲食も控え目にする。

  • 十分な睡眠と休養をとる。
西洋医学では

本文でも紹介したとおり、西洋医学は症状を抑える点で優れています。おもな外用薬は、副腎皮質ステロイド外用薬、タクロリムス(プロトピック軟膏)などです。いずれも免疫力を抑制して症状を抑えている薬ですので、使用をやめると症状は再発します。副作用のこともありますので、そのあたりは十分注意して使ってください。

また、かゆみ止めの内用薬もあります。抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤です。ただしアトピー性皮膚炎によるかゆみには十分でない場合が多いようです。寝る前の激しいかゆみのために寝つきにくいことがあるので、鎮静作用のある内用薬が使われることもあります。

詳しくは下記コラム「アトピー治療、一長一短」をご覧ください。
もう少し詳しく中医学

西洋医学が免疫力を抑えることによりアトピーの諸症状を緩和するのに対し、中医学では患者のからだ全体のバランスを整えることによりアトピー体質そのものから根本治療を進めていきます。

皮膚の乾燥が激しく、同時に熱がこもるように感じる場合は青蒿鼈甲湯や知柏地黄丸、六味地黄湯など、また皮膚がじくじくしやすい場合は霍香正気散や越婢湯、子どものアトピーなど胃腸が弱いことと関係がある場合は黄耆建中湯や平胃散、皮膚が黒ずんでいる場合は失笑散などの処方を参考にして服用するといいでしょう。
コラム「アトピー治療、一長一短」

アトピー性皮膚炎の治療にはさまざまな手段が用いられており、それぞれ一長一短があります。これは絶対にいけないというものはありませんが、自分の行っている治療法のことを詳しく知らないまま治療を続けている人が予想以上にたくさんいらっしゃいます。ご自分のためですので、行われている治療法のことを知っていただきたいと思います。ここではよく使われている方法のついて、簡単に触れておきます。

副腎皮質ステロイド外用薬

現在もっとも頻繁に使用されている薬です。皮膚炎の抑制に対して短期的に使用すれば有効かつ安全です。しかし長期にわたって用いれば皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用が必発します。

またステロイドには慣れの現象が現れてくるので、同じ強さ、同じ量のステロイドではだんだん効果が得られなくなってきます。そのため漫然とステロイド剤を塗り続けていると、次第に強いステロイド、多くの量のステロイドが必要になってきます。免疫力を抑制するので、にきびや感染症にかかりやすくなりますし、ステロイドなしではいられなくなります。また塗り続けた部分の毛細血管が浮いてきて皮膚が赤らんで見えるようになります。毛深くなることもあります。

以上の点から、ステロイド剤を使用する場合は、目的とする効果が得られたら、徐々に弱い外用薬に変えていき、最低限必要な強さのステロイド剤を最小量使うようにする配慮が必要です。

参考までに、ステロイド外用薬をふつうの皮膚に塗った場合、皮膚が薄くなり、角層のバリア機構が低下し、血管がすけて皮膚が赤らんで見えるようになることがわかっています。鋭い切れ味の薬ですので十分注意して使ってください。


タクロリムス(プロトピック軟膏)

ステロイドと同じ免疫抑制剤です。もともと臓器移植手術のときに臓器移植の拒否反応を抑えるために使われてきました。それだけ免疫抑制作用が強い薬です。ステロイドがほとんどすべての細胞に対して免疫抑制・抗炎症作用を持つのに対し、タクロリムス(プロトピック軟膏)はある種の免疫細胞に対してかなり特異的に働くので、皮膚での局所副作用を起こしにくいのが特徴です。ですから顔面や首に用いられることが多いのが現状です。

ただし免疫力を強力に抑えるので注意が必要です。免疫力が落ちるので、当然ウイルスや細菌に感染しやすくなり、がん細胞に対する免疫力も落ちます。にきびもできやすくなります。タクロリムス(プロトピック軟膏)使用中は、遺伝子に障害を与えやすい紫外線・直射日光はできるだけ避けるなど配慮が必要です。

副作用が少ないということで最近多く使われるようになってきましたが、ステロイド外用薬も開発された当初は副作用がなく、約15年後に初めて副作用が問題になってきたことなども考慮に入れて使用する必要があるでしょう。またステロイド同様、症状を抑えている薬ですので、使用をやめると症状は再発します。


イソジン・強酸性水

アトピー性皮膚炎悪化の原因のひとつに、黄色ブドウ球菌の作用が考えられています。イソジン消毒液や強酸性水は、皮膚を消毒して黄色ブドウ球菌を殺菌することにより皮疹を軽くしようという方法です。ただし、これらは細菌の破壊をしてくれますが、同時に人間の皮膚の細胞にも損傷を与えます。その結果、かぶれたり皮膚炎を悪化させたりすることもあります。大量に使うと甲状腺機能に異常をきたす場合もあるようですので、広い範囲に塗り続けるのは避けたほうがいいでしょう。

漢方薬

漢方薬についてはアトピー性皮膚炎の項で詳しくお話しましたので、そちらを参考にしてください。上記の方法がいずれも症状をコントロールする薬であるのに対し、漢方薬はアトピー体質そのものの根本治療を図るものです。副作用が少なく、根本から改善するためにリバウンドや再発の心配も少ないのが特徴です。ただ服用を始めてすぐに効果が現れるとはかぎらず、ある程度時間をかけて服用を続ける必要がある場合が多いのが現状です。

民間療法

ちまたには、あれがアトピーに効く、このお茶でアトピーが治った、という情報が氾濫しています。中には効果的なものもあるかもしれません。また、どのような治療法でも、百人のうち何人かは治ります。しかし多くの民間療法が現れては消えていく現状を見ると、実際に効果的なものはさほどないのかもしれません。テレビや雑誌で見かけた民間療法の中で、これはよさそう、というものがあれば、十分調べて自分で納得してから始めるようにしたほうがいいでしょう。


最後に、アトピー性皮膚炎の治療には、食事をはじめとする生活習慣の改善が絶対に必要です。薬だけに頼るのではなく、生活そのものも見直してみてください。その点どうぞお忘れなく。


参考症例・エッセイなど
 
以下の症例・エッセイ・関連ページも参考になさってくださいませ。
(日経DIコラムは薬剤師向けに漢方を解説するサイトですが、それ以外のかたも閲覧可能です。症例ものせて、わかりやすくまとめました)


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