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 病気といえない病気には、伝統医学が効果的
■■病院では検査をしても異常なし■■

「智子くん、最近、調子はどうだい?」

 元気で行動的な荒木部長は、ときどき部内をうろうろして部員にいろいろと声をかけてくる。普段は忙しく、外に出ることも多いので、ちょっと時間に余裕があるときに部員たちと雑談をするのは気分転換にもなっているのかもしれない。

 わたしは部長と直接仕事のやりとりをしているわけでもなく、調子はどうだいと聞かれても困る。かといって何も話さないわけにもいかないので、体調について回答した。

「はい、おかげさまで。ただ最近ちょっと疲れやすく、めまいや肩こりが少しあります」

 アメリカでMBA(経営学修士)も取っており、荒木部長は自信家だ。声も大きい。

「そんなの、ストレスに決まっているよ、ストレスに。ちゃんとストレス発散をしなきゃだめじゃないか。わたしは休日にはジョギングをして、ストレスを発散しているんだよ。だから平日はばりばり仕事ができるんだよ」

 ちょっと、荒木部長、決めつけないでくださいよ。たしかにストレスがないとは言いません。でも別に体調に影響するほどのストレスは全然感じていませんよ。休日だって彼氏と楽しくデートしているし。

 でも大きな声で持論を押し付けるように話す部長に対し、面と向かって反論はできない。

「そ、そうですね。気をつけます」

「そうだよ。なにか休日に楽しいことでもすればいいんだよ。はっはっは」

 荒木部長はそう言い残して、わたしの側から離れていった。やれやれ、万が一、ストレスがあるとしたら、それはきっと部長、あなたが作っているストレスよ。大きな声で自分の考えを押し通す人って、苦手だわ。

 ふと周りを見渡すと、みんなパソコンや机に向かって黙々と仕事をしている。荒木部長の大きな声が聞こえなかったはずはないのだが、誰も気に留めていない様子。わたしも別に気にならないので、部長が去ったあと、また仕事の続きを始めた。

 数日後、残業で遅くなったあと、風間課長が飲みに連れて行ってくださった。風間課長は荒木部長とは正反対で、声は小さめ。でも人の話をよく聞く人なので、信頼が厚い。たしか二人は同い年くらいだけど、声の大きいほうが出世が早いのは、世の常なのかもしれない。

「そういえば、このまえ会社で荒木部長に体調がよくないようなことを言っていたけど、大丈夫なの?」

 あら、風間課長ったら、心配してくださっていたみたい。

「ありがとうございます。実はあのときも話したんですけど、パソコンをずっと使っているせいか、肩こりがひどくて。頭痛がすることもありますし。それに最近は疲れが取れない感じで、めまいや立ちくらみも起こるんです。なんだか、からだのあちこちに不調が出てきて、気になったので先日、病院に行ってみました」

「で、どうだった?」

「いろいろと検査をしましたが、どこにも異常はなく、あなたは健康です、どこも悪いところはありません、と言われました。悪いところはない、と言われても、こんなに体調が良くないのはどうして? なんて考えていたもんですから、この前、荒木部長に声をかけられたときに、あんな返答をしてしまったんです」

■■からだを癒す伝統医学■■

「なるほど、そういうことか。ま、検査で異常がなしということで一安心とは言えなくはないが、実際に体調が良くないようなら、なんとかしたほうが良さそうだね」

「そうなんです。元気になりたいです」

 風間課長は、ぼんやりとワインを飲みながら、なにか考えているようだった。

「そういえば智子さん、そういうからだの不調には、漢方が効くかもしれないよ」

「漢方ですか?」

「そう、漢方。実は妹の真由子が腰痛になって、病院に行ったんだけど原因もわからず、湿布を張ってはいたんだけど良くならなかったときに、漢方を始めたんだよ。そしたら腰痛が少しずつ改善されてね」

「そうだったんですか」

「漢方の先生によると、妹の腰痛は"気"の流れと関係があったとのことで、気の流れがわるくなって痛みが生じていたらしいんだ。それで気の流れをさらさらにする漢方薬で慢性的な腰痛を改善してくれた、ということなんだ」

「気の流れ、ですか」

「そう、それでわたしも漢方に興味が出てきて、いろいろと調べてみたんだ。そうすると、漢方を始めとする伝統医学には、人体をひとつの有機体として捉える思想が根底にあるというのを知ったんだ。これは、西洋医学が人体を臓器に分けて捉えているのと対照的なことだよね」

 謙虚な風間課長の話には説得力があった。

「そうですね、人のからだは実際、ひとつのものですよね」

「智子さんの今の症状も、疲労倦怠感、肩こり、頭痛、めまい、立ちくらみ、と、からだのあちこちで症状が出ているわけだから、検査をして異常がなくても、伝統医学の視点から見ると、なにかバランスのわるいところが見つかるんじゃないのかな」

 なるほど、伝統医学か。風間課長の話って、からだですっきりと理解できるって感じ。

「伝統医学では、病気や病巣だけを"改善する"のではなく、病人全体を"癒す"ことに力が注がれる、ということらしいんだ。智子さん、よかったら漢方でも始めてみたら、どう?」

 さっそく課長の妹さんが通っていた漢方薬局を紹介してもらい、行ってみることにした。

■■病気ではなく病人を癒す■■

 漢方の先生は、病院とは対照的に、じっくり時間をかけてわたしの話を聞いてくださった。初めて漢方薬局に行ったわたしは、最初は緊張していたものの、穏やかな漢方の先生の雰囲気にすっかり和み、カウンセリングが終わるころには肩こりがずいぶん楽になったような気さえした。これだけで、肩こりが単なる筋肉や関節だけの問題ではないということが理解できたように思えた。漢方薬が効きそうに思えてきた。

「智子さんの場合は"気"が不足している状態のようですね」

「気の不足、ですか」

「そうです。からだの元気や生命エネルギーが低下しているようです。ちょっと仕事をがんばりすぎたのではありませんか? 今の状態は、気が不足しているために、生命活動に必要な栄養やエネルギーを上半身に運び上げる力が弱くなっており、その結果、上半身で元気がないような症状が現れているのです。肩こり、頭痛、めまい、立ちくらみ、全部そうです」

 なんと身体感覚にフィットする説明だろう。漢方の理論体系ってすごい。

「ストレスは関係ありますか?」

「関係なくはありません。でも、重視すべきは気の不足でしょうね」

 わたしはさっそく気を補う漢方薬を飲むこととなった(漢方道の必殺技@)。人参、黄耆などの生薬が配合された処方だった。「ところで先生、ひとつ聞いてもいいですか?」

「一つでも二つでも、どうぞ」

「伝統医学っていうのは、どういうものなんですか?」

「一言でいえば、病気だけをみるのではなく、病人全体を癒していく医学です。からだのリズムを調え、自然界の力を心身に取り入れ、からだが心地よく機能する状態を作り上げることにより、生命力を癒します。漢方や中医学、鍼灸、気功、アーユルヴェーダやヨガ、アロマテラピーなど、いろいろありますが、いずれも長い歴史の中を受け継がれてきただけあって、西洋医学のような即効性はありませんが、人体のリズムに合った自然なスピードで、からだの中から改善されていきます。副作用が少ないのも、特徴のひとつです。人の生命力や自然界の力を尊敬し重視する医学ですね」

 漢方薬は、期待どおり、わたしにじわじわと元気を与えてくれた。疲れだけでなく、肩こりやめまいもすっかり楽になった。薬の作用を強引に主張するのではなく、患者の体調を丁寧に探り、それにあわせて薬効があらわれる感じがした。

 風間課長も、元気になったわたしを見てうれしそうだった。廊下で会ったときに、わたしは課長に言った。

「漢方って、風間課長みたいですね」

「はあ?」

 風間課長みたいに謙虚な人が、この会社を支えてくれるといいな、と思った。


★ 漢方道・四つの必殺技 ★

  1. 「補う」
    足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
  2. 「捨てる」
    体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
  3. 「サラサラ流す」
    漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
  4. 「バランスを整える」
    内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス・・・漢方の得意技はバランスの調整にあり。


● 今月の美肌薬膳はこれだ! ●

『舞茸のクリーム煮』

材料(2人分):
マイタケ  1〜2パック(200g程度)
パルミジアーノ・チーズ 40g(すりおろす)
バター 15g
小麦粉 大匙1
牛乳 100cc
生クリーム 30cc
塩・こしょう 適宜


作り方:
@ マイタケは一口大に切る。
A 鍋にバターを溶かし、マイタケを炒める。
B 少ししんなりしたら小麦粉を振りいれ、さらに炒める。
C 牛乳を注ぎいれ、とろみがつくまでしばらく混ぜながら煮る。
D パルミジアーノ・チーズと生クリームを加え、チーズが溶け込んだら、塩・こしょうで味を調える。


● 生活習慣病が気になる人は、おいしい舞茸を食卓に取り入れて!

(2007年11月号)

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