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中医学に陰虚(いんきょ)という重要な証(しょう)があります。陰虚とは簡単にいうと体内で必要な陰液が不足している状態です。陰虚証は多くの場合、治りにくい病気や症状と深く関連していますので、十分理解しておく必要があります。
わかりやすい病例では、秋から冬にかけての乾燥した季節に肺で陰虚の状態になり、肺陰虚という証になる場合があります。呼吸器系が乾燥している状態に当たります。コンコンと乾いた咳が出て、痰がからむような状態です。咳は出始めると何度も続けて出てせき込むこともあります。このような咳に単なる咳止めだけで対処するのはあまり好ましくありません。麦門冬湯など肺陰虚を補う方剤が必要です。詳しくはフィールドアイ11号をご覧ください。
肺以外の臓腑での陰虚は、乾燥した外気などの影響より、むしろ日々の生活習慣の乱れが原因となり生じます。体内で必要とされる陰液が少しずつ不足していくのです。とくに糖尿病、高脂血症、アトピー性皮膚炎、自律神経失調症、甲状腺機能亢進症、気管支拡張症、胃潰瘍、更年期障害などは陰虚と密接に関連しています。
ここで陰虚という証についてもう少し詳しく見ておきましょう。陰と陽は中国古代哲学に基づいた一対の範疇のことで、意味する幅が広く抽象的な概念です。中医学でも陰陽は多くの分野で出てきますが、陰虚という場合の陰は陰液のことを指します。陰液とは人体の構成成分の気・血・津液のうち、物質を表す血と津液のことです。そしてその体内で必要な物質が不足している状態が陰虚です。虚証というのは中医学では不足している状態のことで、日本の漢方でいわれるような、やせ形で色白で声が小さく冷え症のタイプとは違いますので混同しないでください。
陰虚になると体内で必要な物質が不足していますので、顔色が悪く、肌や爪のつやがないなど栄養不足の症状が表れます。目がかすんだり、頭がぼうっとしたりもします。唇や口の渇き、動悸など水分の少ない症状も表れます。さらに機能の活動を調整することができなくなり、自律神経系やホルモン内分泌系の機能失調を引き起こします。とくにのぼせやほてり、いらいらや不眠、そして寝汗をかくなどが特徴です。
動物の肉は高たんぱく高カロリーの栄養源として現代栄養学でも重要な食物ですが、食事の内容が肉食に偏りすぎると陰虚の体質に向かいます。スナック菓子のとり過ぎにも注意してください。肉食やスナック菓子は体内で余分な熱を発生し、陰液を傷つけます。食事は穀物・豆類や野菜を中心にし、間食を控えめにしておくことが基本です。
口が渇くからといって水分を多量に摂取するのもあまり効果がありません。水分のとりすぎは胃腸の働きを阻害し、必要な栄養などの消化吸収を妨げます。のどが渇くときに必要なのは胃の中の水分を増やすことではなく、体の中の水分を適正にすることです。
慢性的な疲労や過度の疲労、また精神的なストレスが原因で陰虚となる場合も多く見られます。慢性疾患を患いながらも養生をしないでいる場合も陰虚になります。ちょっと体調がすぐれないときは、会社の定期検診で異常なしといわれていても十分に休養をとり無理を続けないことが長い目で見たときに明らかに得策です。
陰虚は生活習慣の改善だけではなかなか快方に向かいません。
改善には、西洋人参(せいようにんじん)・玄参(げんじん)・生地黄(しょうじおう)・女貞子(じょていし)・沙参(しゃじん)・麦門冬(ばくもんどう)など陰液を補う生薬を用います。方剤は左帰丸(さきがん)・沙参麦門冬湯(しゃじんばくもんどうとう)・六味丸(ろくみがん)などの滋陰薬を応用します。日本では滋陰薬のエキス剤が少なく、六味丸エキスと麦門冬湯エキスくらいしかないのが残念です。しかしもともと陰虚は根が深い病気なのでエキス剤での改善には限界があり、多くの場合煎じ薬で服用します。
カエルを熱い湯に入れるとあわてて飛び出し逃げますが、水に入れて少しずつ加熱すると熱くなっても逃げることなくそのまま死ぬといわれています。陰虚もこのように少しずつ体質を悪化させる厄介な証です。また糖尿病の口渇やアトピー性皮膚炎の皮膚の乾燥など以外は自覚症状が少なく、判別しにくい証です。西洋医学的検査でも検出されませんので、日頃からの養生を忘れずに、また心配な方は中医師など中医学の専門家に相談するとよいでしょう。早めの対策が結果的に負担も少なくなります。
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