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 生理痛になりやすい体質を、漢方で改善     
■■毎月おそわれる激痛■■

 きょうはふつうの木曜日である。午前10時、いつもなら会社のパソコンに向かって仕事をしている時間、今日の弘美は家にいる。窓の外ではお散歩中の保育園児たちの黄色い声や、廃品回収のマイク声がする。いつもの日常が、弘美の住む町でも始まっている。

 こんなとき、ふらっと近所を散歩するのも楽しいだろう。

 しかし弘美は家から出ない。強烈な生理痛にみまわれて、布団にくるまっているのである。じっとしている以外に方法がない。

 毎月きちっとやってくる、この激痛。生理が始まるその日一日だけ、いや、ほんとに動けないほどつらいのは、ほんの数時間、まことにつらい。生理が始まる数時間前から下腹部がきゅっと痛み、始まると同時に、子宮をえぐられるように痛む。
「女性はえらいね。たいへんだね。」
恋人の誠二は言ってくれてうれしいけど、本当にわかってくれているのかしら。

 会社の上司は女性なので、そのあたりは理解してもらえるようで、助かる。でも決して休みやすいというわけではなく、激痛の数時間が勤務時間とだぶらないかぎり、鎮痛剤を飲んで痛みを和らげ、会社に行くようにしている。ただ、痛みがピークの数時間だけは、駅まで歩いて電車に乗って、満員電車にゆられて押されて、地下鉄の階段を上って会社に行って、席にしゃきっと座っている、なんて、とてもじゃないけどできない。鎮痛剤もあまり効かないので、本当に横になってエビのように背中を丸くしてじっとしているしかないのである。

■■鎮痛剤も一つの方法だが■■

 電話のベルが鳴る。

「弘美、だいじょうぶ?」

 同期入社のゆみ子からである。漢方薬局の勧めで、最近、毎朝味噌汁をつくって飲んでいる、と仲間内でも話題のゆみ子だ。食生活の改善ということらしい。あんなに好きだった清涼飲料も、最近はほとんど飲んでいない。

 そのゆみ子が会社の休み時間に電話をしてきてくれたようだ。友だちとは、ありがたいものである。でも、受話器をとるのに手を伸ばすのも痛いし、話すのも本当はつらい。

「ああ、大丈夫よ」

 ほんとは大丈夫じゃないから、こうやって会社を休んで寝ているのだが、そうも言えない。

「で、どうしたの、ゆみ子?」

「どうしたの、じゃないわよ。生理かとは思ったけど、いちおう心配で電話したのよ」

 いちおう、というのも気にかかるが、まあいちおうでもなんでも心配してくれるのは、ありがたい。

 ゆみ子は、漢方を煎じるようになってからというもの、一番の悩みだった慢性的な膀胱炎の調子がよく、おまけにそれ以外の体調もいいようである。そういえば先月、生理痛も軽いといっていた。

 わたしも漢方は飲んだことがある。女性誌の漢方特集で、生理痛に効く漢方、ということであげられていた、たしか桂枝茯苓丸という錠剤である。ドラッグストアで買った。

 3カ月くらい飲んでみた。お通じがちょっといい感じはしたが、肝心の生理痛には効かなかった。

 病院に行ったこともある。ポンタールやロキソニン、ボルタレンなど、さまざまな鎮痛剤が処方された。ある程度痛みが和らぐものもあったが、胃腸障害などの副作用がでた。ならば鎮痛剤の坐薬がある、と言われたが、試していない。

 ――結局、生理のたびに痛みを鎮痛剤で抑えるしかないのだろうか。

 漢方を出す病院へも行った。処方されたのは、自分で選んだのと同じ桂枝茯苓丸の顆粒だった。それもそのはず、医師はわたしにいろいろ質問して、漢方の解説書らしき小冊子の、月経困難症のページをみながらマニュアルどおりに処方を選んでいた。

 2カ月間飲んでみたが、やはり効果はなかった。

「でしたら、これにしてみましょうか」

 医師は、2カ月前と同じ冊子を白衣のポケットから取り出し、2カ月前と同じページの図表の部分を指差しながら言った。今度の処方は温経湯の顆粒になった。

「またこれでちょっと様子をみてください」

 漢方でわりと有名な病院の漢方外来だったが、その程度だった。温経湯を2週間飲んでみたが、その間に来た生理はいつもと変わらなかった。

 それ以来その病院には行く気がせず、生理のときは鎮痛剤で痛みをごまかしている。

■■漢方の改善方法は■■

「ちゃんとした漢方薬、試してみたら?」

 この激痛の最中に電話の向こうからゆみ子が言った。ちゃんとした漢方、か。たしかに漢方外来の医師は、漢方に関していえば、わたしの独学知識と同じレベル、と言っては失礼だが、少なくとも、さすが専門家、というものではなかった。そういうレベルではなく、漢方の専門家、プロに相談するという手が残っている。この苦境の中での、やさしい友人の一言はとりわけありがたい。

「そうね、行ってみる」

 生理が終わってから、ゆみ子に紹介された漢方薬局に行った。先生は男性だった。

 最初のカウンセリングでは、生理について、ずいぶん細かいことまで聞かれた。痛むのはいつか、痛むのはどれくらいの期間か、痛いのはどこか、どういう痛みか、出血の量はどうか、色はどうか、かたまりはあるか、生理前はどんな状態か、おりものはどんなか、など、淡々と聞かれた。自分のことなのに、えっと、どうだったかな、と考えてしまう質問もあった。生理のことなんか、人と比べたことがないのでわかりません、といいたくなる問いもあった。生理とは関係なさそうなこと、たとえば冷え、睡眠、便通などについても細かく聞かれた。

 ――生理痛だけ改善してくれればいいのに。

 「漢方薬には、痛み止めの成分は入っていません。漢方薬は、痛みを引き起こす原因を改善していくことで、痛みを和らげていきます。痛みを生じさせている体質を、改善させるわけです。体質が改善されれば、痛みは生じなくなるでしょう」

 なるほど、生理痛ではなく、生理痛を引き起こしている原因を改善する、ということらしい。よくいわれる「体質改善」というもののようだ。

 ――で、わたしの体質は、どんなものなのだろうか。

「あなたの場合は、漢方でいう『血』の流れがわるいタイプです。それは生理の出血の色やかたまりに特徴が現れています。ほら、そこのにきびのあとがちょっと紫色をしているでしょ。それも、このタイプの人によく見られます。痛みは、『血』の流れが滞って、そこで生じているのです。そういう場合は漢方道の必殺技Bのサラサラ流す方法で対処します。『血』の流れがサラサラするような体質になれば、それがつまって痛むこともなくなります」

 生理痛になるタイプとしては、わたしのような場合以外に、「気」の流れがわるいタイプ、冷えが根本にあるタイプ、「血」の量が不足しているタイプ、など、さまざまあるそうだ。そしてそれぞれ生理の状態や、それ以外の症状で特徴があるので、話をくわしく聞いていけば、わかるそうである。

 わたしの体質もわかり、処方する漢方薬も決まったようで、先生はペンを置いた。

「生理の痛みは男のわたしにはわかりませんが、生理のたびにいやがるのではなく、からだ全体で協力して前向きに対処していくのがいいでしょうね」

 先生が、誠二よりも頼もしく見えた。はじめは生理のことを細かく聞かれてちょっと困ったけれど。

 カウンセリングは20分ほどで終わった。くわしく話を聞いてもらって、おまけにわたしの体質まで教えてもらって、まだ漢方薬を飲んでもいないのに、すっかり生理痛から解放された気になっていた。

「どうぞありがとうございました」

「どうぞお大事に。あ、でも、痛くてどうしようもないときには、市販の鎮痛剤などを併用してください」

 ――えっ、それって、漢方薬は効かない、ということ?

 せっかく治った気でいたのに、そういえばまだ何も飲んでいないということを思い出した。また2週間もすれば、生理が来るじゃない……。

「漢方薬で体質が改善されてくれば、生理痛も楽になってきます。ただし漢方を飲み始めてすぐに体質が改善されるというものではありません。ですから漢方薬を飲んでいても痛むこともあります。漢方に痛み止めの成分が入っていないのも、さっきお話したとおりです。社会生活もあるでしょうから、痛みがひどいときは、無理しないで鎮痛剤を併用した方がいいと思いますよ。体質改善がすすめば、痛まなくなってくるでしょうから」


★ 漢方道・四つの必殺技 ★

  1. 「補う」
    足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
  2. 「捨てる」
    体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
  3. 「サラサラ流す」
    漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
  4. 「バランスを調える」
    内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス・・・漢方の得意技はバランスの調整にあり。
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