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ゆみ子の朝はこれまでよりも5分だけ早く起きることから始まる。
朝起きたらまず台所に行き、鍋に火をつける。鍋の中には昨晩放り込んでおいただし出汁パックが水につかっている。朝には出汁はある程度出ているだろうが、そのまま火にかける。
ちゃんと点火したことを確認して、立ったままコップ一杯のミネラルウォーターを飲み、それから洗面所へ行き、顔を洗う。
台所に戻ってくるころには、ちょうど鍋の湯が少しぐらぐらと対流し始めている。そのあたりで出汁パックを箸でつまみ出し、捨てる。出汁の香りが食欲をそそる。さて味噌汁の具は何にしようかと、冷蔵庫の扉を開き、中をのぞく――。
ゆみ子が朝食に味噌汁を飲むようになったのは、漢方薬局でそれを勧められてからである 。始めてみると、思っていたほど手間ではなく、しかも朝から頭がさえて、いい。夏のクーラーにも強くなったし、化粧ののりもいい。自分でも元気になったと思う。なによりも一番の悩みだった膀胱炎の再発がまったくない。
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ゆみ子の悩みは、繰り返し再発する膀胱炎だった。もう5、6年になるが、梅雨どきから夏の終わりにかけての時季に体調をくずす。疲れたとき、ストレスを感じるときなどに頻尿になる。さっきトイレに行ったばかりなのに、すっきりせずにまたトイレに行きたくなる。それが排尿時に痛みを感じる程度になると、近くの診療所に行く。抗生物質をもらう。薬を3日も飲めば、症状は落ち着く。
処方される薬は、どこの病院へ行っても似たり寄ったりである。よく効く。
はじめの2、3年は、抗生物質で膀胱炎を治すことに何の疑問も感じなかった。ほんの小さな錠剤で頻尿や痛みが緩和されていくことに驚きも不思議も感じなかった。膀胱炎にかかるたびに、白い錠剤はゆみ子の体内で細菌を退治してくれた。細菌が減れば症状は治まっていった。いつもいつも、抗生物質に頼りっぱなしだった。
――でも、こんなことの繰り返しでいいのかしら。
去年くらいから、そう思うようになった。毎回、抗生物質を飲んで、膀胱に侵入してきた細菌を殺す。そのときはとりあえず、それで落ち着く。それでもまた体調のわるいときを見計らって細菌はゆみ子の体内に侵入し、ゆみ子を苦しめる。抵抗力が落ちれば抗生物質に頼ってしまう、その繰り返しであった。
――根本的に改善できないかしら。
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そのときゆみ子が思い出したのは、綾香のことだった。学生時代からの友人で、今でもときどき飲みにいく。
綾香は学生のころから線が細く弱々しそうで、実際よくかぜを引いては寝込んでいた。弱々しいところが男心をくすぐるのか、色白の綾香はよくもてた。体育会系のゆみ子にとっては、ちょっとうらやましい存在だったが、熱を出しては学校を休むことが多い彼女は、気の毒な存在でもあった。
その綾香が、最近は元気なのである。
「綾香、最近むかしみたいにかぜ引かないね」
「あら、それってほめてくれているの?」
「だって学生時代はあんなに弱かったのに」
「そうね、社会人になってからも、そうだったわ。でも熱がでたくらいでしょっちゅう会社を休んでもいられないし、かといって無理が利くタイプでもないでしょ。それを見かねた横浜の伯母が、漢方薬を勧めてくれたのよ」
「漢方薬?」
「そう、漢方薬で体質改善したら、って」
「漢方薬で体質を変えられるの?」
「漢方ってひとりひとりの体質に合わせて処方されるの 。それでわたしの場合は、かぜを引きやすい弱っちい体質を改善する漢方薬を1年くらい飲んで、いまや元気な女に変身したってわけよ」
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わたしも漢方を試してみることにした。さっそく綾香と同じ漢方薬局に電話をした。3週間先までは予約でいっぱい、と言われたが、ここまできてあわてることもないと思い、おとなしく順番がくるのを待った。漢方はこれまでなじみのなかった世界だが、わたしの知らないところではそれを求める人が意外に多いことに少し驚いた。
ようやく予約した日がきたので漢方薬局に出かけ、カウンセリングを受けた。尿検査などはなかったが、漢方の先生はこちらの話を丁寧に聞いてくれた。メモをとりながら話を聞き、ときどき考えながら、いろいろと質問をしてきた。わたしの体質をみきわめているようだった。
「あなたは冷えが根本にあり、それが免疫力の低下につながって膀胱炎にかかりやすくなっているようです」
と漢方の先生は言った。
「だれでも平等に、細菌が感染して膀胱炎にかかる危険にさらされています。でもふつうは人体に備わる免疫力や防御機構が作動して、病気になる前に細菌を殺しています。ところが疲れたりして免疫力が下がっているときには細菌の感染を防ぎきれず、その結果、膀胱炎になってしまいます。あなたの場合は、そういう状態になりやすいようですので、漢方薬で基礎的な免疫力を高めておくといいでしょう」
免疫力を高める、といっても、その方法はひとりひとりの体質によって異なり、わたしの場合は冷えをとって抵抗力を補う(漢方道の必殺技@)生薬の山茱萸や杜仲、山薬などがいいそうだ。
慢性的に膀胱炎を繰り返す人にはいろいろなタイプがあり、わたしのように冷えて免疫力が弱っているタイプのほかに、粘膜が弱いタイプや、緊張しやすいタイプなどさまざまあり、それぞれ適応する漢方生薬は違うそうだ。
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「膀胱炎だけでなく、尿の失禁や膣炎など、あまり人には相談しにくい症状で悩んでいる女性は意外と多いですよ。慢性的な場合は漢方薬で体質を改善してそれらの悩みを根本的に解決していくのがいいでしょうね」
先生はメモをとりながら説明してくれた。
「膀胱炎で悩む人は多く、女性の5人にひとりはその経験があるといいます。とくに仕事をする女性に多く、トイレを我慢することや、職場の冷房、仕事のストレスなどの関係で慢性化させる人も少なくありません。
膀胱炎は、膀胱の粘膜に炎症が生じる病気です。一般には、細菌が感染することにより、この病気になります。女性の場合、男性と比べて尿道が短く、また尿道口が肛門に近いので、大腸菌などの細菌が膀胱に入りやすい。さらに疲労の蓄積や、冷え、ストレスなどの影響で免疫力が低下すると、膀胱炎にかかりやすくなります。
病院に行くと抗生物質が処方されます。何日間かきちんと飲めば、症状が治まります。
ただし症状は治まっても抵抗力が弱っていると再発を繰り返します。膀胱炎は再発することが多い病気です。膀胱内に細菌がいなくても、心理的な緊張や不安感で症状をあらわす場合や、膀胱の知覚が敏感になっているせいですぐ尿意を感じるケースもあります。このように再発を繰り返し慢性化した膀胱炎の場合は、抗生物質はあまり効きません。漢方薬で根本的な改善をするのがいいでしょう。
参考までに、尿失禁に悩む女性も多くいます。15人にひとりほどの割合のようです。咳やくしゃみをした拍子に漏れたり、重いものを持ち上げたときに漏れたり、あるいはトイレへ行く途中に我慢できなくなったりして起こりやすいようです。若い人にも少なからず見られます。漢方では、からだ全体のバランスを調整して体力をつけ、神経系の働きを整えて対応しています」
こうして初回のカウンセリングは終わった。先生の説明はわかりやすかった。
――女性は男性より尿道が短い、か。
なるほど。でも、この不思議な人体、それにもなにか深いプラスの理由があってのことだろう。わざわざ膀胱炎にかかりやすくするために神様が尿道を短くしたはずはない。このからだと仲良く生きていくことにしよう。
わたしの場合、漢方薬の服用と並行して、日常生活でもからだが冷えないような工夫をするように、と言われて勧められたのが、朝の味噌汁ってわけ。それ以外には、水分を多めにとって尿量をふやし、膀胱内の細菌をどんどん洗い流すこと、トイレは我慢しないことなどもアドバイスされた。
おかげで膀胱炎は落ち着いているし、それ以外の体調もよくて、満足している。
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★ 漢方道・四つの必殺技 ★
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- 「補う」
足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
- 「捨てる」
体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
- 「サラサラ流す」
漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
- 「バランスを整える」
内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス・・・漢方の得意技はバランスの調整にあり。
● 今月の美肌薬膳はこれだ! ●
『夏野菜のかきあげそうめん 』
材料(2人分):
ゴーヤ、カボチャ、タマネギ、オクラ、シシトウ 各30〜50g
衣 小麦粉 120g
冷水 100cc
卵 1/2個
揚げ油 適宜
そうめん 3把
めんつゆ 適宜
作り方:
@ ゴーヤとカボチャは種を除き1センチ角に切る。他の野菜も1センチ角に切る。野菜全体に小麦粉(分量外)をまぶして混ぜる。
A 衣の材料を混ぜ、@の野菜を入れる。
B Aを一口分ずつスプーン等に乗せて熱した揚げ油にそっと落とし、こんがりと色づくまで揚げる。
C そうめんをゆで、冷水で洗う。
D そうめんとかきあげを盛り付け、めんつゆを添える。
●夏野菜の滋味をかきあげに凝縮して。サツマイモ、サヤインゲンなど好みの野菜でもOK!
(2005年9月号)
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