薬石花房 幸福薬局
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30歳の女性で、生理不順の方がいました。生理の周期が安定せず、おくれぎみです。量も多かったり少なかったりします。生理痛もあり、痛みがひどいときや、それほどでもないときがあります。つらいときには鎮痛剤を飲みます。結婚して2年目です。今のところ特に急いではいませんが、将来は子どもを生みたいと思っています。

――いま現在は、とくに困ることはないけど、なんとなく心配で……。

生理不順のほかには冷え症もあります。手足だけでなく、おなかや腰も冷えます。肌のくすみも気になります。

生理不順は、その原因となる病気が検査ではっきりと判明しないかぎり、西洋医学ではなかなか本格的な病気として認めてもらえません。しかし漢方では、女性の一生の中での生理の存在を重要視し、生理不順をとても重要な病気として扱います。それは、ホルモンバランスの乱れが、将来、不妊、早めの更年期障害、骨粗鬆症、免疫力の低下、そして老化の促進につながってくるからです。いま現在はとくに大きな病気があるわけでもなく、また別に日常生活で困ることもないのでほうっておいていいでしょう、というのでは、将来、困ります。長期的な視野からトータルで考える漢方の視点が重要になってきます。

生理不順は強烈な痛みや苦しみが少ないため放置しがちですが、このまま年をとると冷えや疲れが慢性化して体調をくずしやすくなり、ホルモンバランスも安定しないままになります。妊娠もしにくくなります。また早めに更年期を迎えたり重い更年期症状に悩まされたりすることにもなりかねません。皮膚や骨、内臓の老化も進みます。

女性の生理は、漢方でいう五臓六腑つまり内臓の調子や心身の状態と深い関係にあります。内臓機能や血行の悪化、さらに精神的なストレスにより生理に異常が現れます。生理不順は早めに治しておいたほうがいいでしょう。

――ホルモンバランスがそんなに大事なの?

ホルモンは体内でつくられる物質で、体の恒常性を維持するという重要な働きをしています。ごく微量で作用し、その力は強く、即効性があるのが特徴です。恒常性とは、外界の環境が変化しても体内の内部環境を安定した状態に保とうとする性質です。生物が生きていくうえで、なくてはならない性質といえます。

体内でつくられるべきホルモンを、飲み薬や注射で体外から取り入れた場合、その薬効は強力です。ホルモンは、微量で作用が強く、即効性があるからです。ホルモン治療で生理を来させたり、排卵を誘発したり抑えたりということは、いとも簡単にできます。しかし、それだけに、ホルモン剤を使う場合は慎重にならなければなりません。体内のホルモンが足りない場合は、外から与える必要があることもありますが、長期的には、自然で安定したホルモン状態を自力で維持できる体調に持っていきたいものです。それをするのが、漢方です。漢方薬にホルモン剤が配合されているわけではありませんが、生薬の力でからだに秘められた生命力を高めることにより、ホルモンバランスを整えていきます。

月経周期について、おさらいしておきましょう。

月経は微妙なホルモンバランスのもとに一定の周期をもって反復します。排卵までの前半は主にエストロゲン(卵胞ホルモン)の働きによって卵胞期が形成されます。卵胞が成熟すると黄体形成ホルモンが放出され、排卵を起こします。排卵以後はプロゲステロン(黄体ホルモン)によって黄体期が形成されます。妊娠が成立しなかった場合は、排卵からおよそ2週間で黄体が退縮して子宮内膜から出血、すなわち次の月経がひき起こされます。

放出されるホルモン量はごく微量であり、たとえばエストロゲンの血中濃度は、卵胞期に示す最大値でも約200pg/mlです。これは25メートルプールいっぱいの水に わずか0.1グラムのエストロゲンを溶かした濃度となります。まさに微量のホルモンが、大きな作用をおよぼしているといえます。

しかし、ホルモンという物質が女性の生理を支配しているのではありません。女性が体内で卵子を育て、次の世代の生命をつくるという大きな仕事ができるように生理があり、生理周期があるのです。そしてその結果、毎月、新しいフレッシュな子宮内膜が卵子のために用意されるのです。ホルモンは、その目的のためにつくられ、放出されるのであり、私たちはホルモンのために生きているのではありません。私たちが生きるために、そして子孫を残すために、ホルモンがあるのです。

式年遷宮をご存知でしょうか。伊勢神宮などの神社で、その社を20年ごとに壊し、それとはまったく別の新しい社をつくることです。そうすることにより、神様がいつでも新しいところに住んでいただけるようにしているのです。女性の生理は、そのような偉大な使命をおびた営みだと思います。式年遷宮は太古の昔から脈々と続けられています。

漢方では、月経を単にホルモンだけの問題だとは考えていません。そこには内臓の機能や血行、また精神の状態や基本的な体調なども深い関連がある、と考えます。たとえば仕事のプレッシャーや人間関係のストレス、睡眠不足などで生理が早く来たり遅くなったりした経験をお持ちのかたは多いと思います。

このような側面をもつ生理不順を、安易にホルモン療法などでその場しのぎをするのではなく、病態を根本的に改善することにより、自分の力で月経を正常に発来させるようにするのが漢方です。

女性には生理があるおかげで、そのぶん自分のからだが発する声を聞く能力が男性よりもすぐれています。ときどき少し生理が乱れる程度ならまったく心配いりませんが、ちょっとおかしいな、と思ったら、それはあなたのからだがあなたに何かを訴えている声です。
その声に謙虚に耳を傾けて生活習慣の見直しや体質改善を図るといいでしょう。

冒頭の女性の場合は、杜仲、菟絲子などバランスを整える(必殺技4)作用の強い生薬を中心に、枳殻や当帰など気と血の流れをサラサラにする(必殺技3)生薬を加えたものを用いて、約6ヵ月で生理を安定させました。

20歳の学生で無月経の方がいました。初潮から生理が安定せず、おくれがちだったのですが、17歳のころからまったく生理が来なくなりました。婦人科でホルモン治療を6ヵ月間うけたところ、その治療中は生理がぴたりと来ました。しかし治療をやめると、また生理が来なくなりました。

治療後、いくらたっても生理が全然こないので、もう一度、婦人科へ行きました。そして再びホルモン治療を6ヵ月間、受けました。やはり治療中は生理がきっちり来ましたが、治療後は、また無月経となりました。

この方の場合は、まずホルモンバランスを整え、自分で自分のからだのホルモン内分泌系をうまく機能させる力をつけさせるのが、第一。バランスを整える(必殺技4)効果が強い続断、山茱萸、山薬などの生薬を用いてホルモンバランスを正常化させていきました。同時に、受験期の精神的な負担や緊張をやわらげるために、サラサラ流す(必殺技3)働きのある生薬、柴胡なども同時に煎じてもらいました。その結果、3ヵ月目に自然なかたちの生理が来ました。1年後には28日周期で生理が安定して来るようになりました。

ストレスやダイエット、冷えや肥満などによって、生理不順は簡単にやってきます。生理不順は現時点ではたいした負担ではなくても、将来は不妊になったり更年期に悩まされたり、また老化が加速したりということにつながることがあります。早めに手を打っておいたほうがいいでしょう。

なお生理不順、生理痛、月経前症候群、子宮筋腫や子宮内膜症については、拙著「漢方美人講座」(文藝春秋)の中で詳しく解説してあります。そちらも参考になさってください。


★ 漢方道・四つの必殺技 ★

  1. 「補う」
    足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
  2. 「捨てる」
    体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
  3. 「サラサラ流す」
    漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
  4. 「バランスを整える」
    内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス・・・漢方の得意技はバランスの調整にあり。


● 今月の美肌薬膳はこれだ! ●

『アジときゅうり胡瓜の酢漬け 』

材料(2人分):
アジ 大1尾 (三枚におろして一口大にそぎ切り)
きゅうり胡瓜 2本(スライサーで薄切り)
五味子 約6グラム
米酢 60cc(五味子を一晩つけておく)
塩、小麦粉、揚げ油 適宜

作り方:
1.米酢50ccに塩少々を溶かしておく。
2.胡瓜に多めの塩をまぶし、15分ほどたってしんなりしたらよく絞る。味を見て、塩からすぎたら軽く水洗いして絞る。
3.(2)を酢の半分で和えておく。
4.アジに薄く塩をし、小麦粉をまんべんなくまぶして揚げ油でからりと揚げる。
5.揚げたての()を残りの酢に浸してなじませる。
6.アジと胡瓜の汁気を切って盛り合わせる。

● 五味子は、呼吸器系や肝臓の病気に効果があり、ホルモンバランスの調整にも作用します。米酢と五味子のベストコンビで元 気をからだにたくわえて!

(2003年11月号)


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