薬石花房 幸福薬局
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みなさん、漢方ってなんだと思っていますか。どくだみ茶は漢方ですか? ハトムギ入りの化粧水は漢方でしょうか? 正解はのちほどお答えするとして、今回はまず漢方の世界をざっと見てみましょう。

わたしたちがいう漢方の中には、大きく分けて日本の伝統医学と中国医学とがあります。いずれも長い歴史の中で進化し実績を積んできた信頼性の高い医学です。日本の場合は今から百数十年前に明治政府が西洋医学を採択したために、それ以降の医療現場では西洋医学が本流となりました。明治維新当時には和学派・漢学派・蘭学派による三つどもえの議論があったようですが、最終的に採用されたのは欄学派の主張する西洋医学でした。なお和学派は日本の伝統医学の継承を主張し、漢学派は中国医学の採用を力説していました。

わたしがここで漢方といっているのは中国医学です。日本の伝統医学ももともとは中国医学を輸入して独自に発展してきたものですが、わたしのいう漢方は、現代でも中国の医療現場で進化しつづけている中国医学のことです。さまざまな医学のプラス面を評価して医療現場や日常生活に取り入れることにより、わたしたちの生活や人生が豊かになり楽しくなると考えています。

現代の中国でもこれと同じような考え方があります。わたしが病院研修のために北京中医薬大学付属東直門医院という中国最上級の中国医学総合病院にいたときの話です。
病棟三階の鍼灸推拿の病室に、慢性頭痛に悩む中年の女性が来ました。鍼灸推拿というのは、針灸やマッサージで病気の治療を進める分野です。その女性がいうには「慢性的な頭痛に悩まされているので、まず西洋医学の病院に行きました」。中国では、中国医学で根本的な治療をするか、または西洋医学で対症療法的な治療をするかを、患者自身が選択し、中国医学の病院に行くか西洋医学の病院に行くかを自分で決めるシステムがあります。「その西洋医学の病院でいろいろ検査をしてレントゲンもとってもらったのですが、西洋医学的にはまったく異常が見つからなかったのです。それでそこのお医者さんに、脊椎の微妙なゆがみが気血の流れの邪魔をした結果として頭痛が続いている可能性があるので中国医学の病院に行くように、と言われたのでここに来ました」。
その女性は3ヶ月ほど漢方薬の服用とマッサージを続けて慢性頭痛を改善しました。中国医学により根本的に頭痛の原因が取り除かれましたので、それ以降は漢方薬もマッサージも必要なくなりました。

もし西洋医学の治療を続けていたら、おそらく頭痛のたびに鎮痛剤を飲みつづけることになっていたでしょう。もちろん鎮痛剤に は、服用すれば即座に痛みを感じなくさせてくれる作用があるので、それはそれでひとつの選択肢です。しかしこのあたりに中国医学と西洋医学との大きな違いが感じられますね。

なお上記の女性に処方されていた漢方生薬は、漢方道の必殺技「(3)サラサラ流す」ための当帰・川・鬱金・紅花・降香など に、「(2)捨てる」ための防風・薄荷などが加味されたものでした。

中国医学には大きく四つの臨床分野があります。それらは中医中薬学・鍼灸推拿学、それに気功と薬膳です。中医中薬学は、漢方薬で体の内側から病気の改善や健康維持をする分野、いわゆる漢方です。鍼灸推拿学は、先の頭痛の女性の例に出てきたように針灸やマッサージなど体の外側から改善を進める分野です。

いずれの分野も、それぞれ専門的な教育を受けて高度な知識や判断力を身につけた専門家がおり、彼らが医療現場を支えています。

彼らのことを中医師といいます。中国医学専門の医師のことです。薬膳による治療も、もちろん中医師が担当します。薬膳治療専門の中医師はかつて食医と呼ばれ、中国宮廷ではもっとも才能のある医師が担当していました。皇帝の毎日の食事の好き嫌いをみて皇帝の体調を判断し、食事の内容を皇帝の体調に合わせて決めていくのです。このあたりは「王様の漢方」の映画や本にも出ており、なかなか興味深い部分ですよ。

さてさて薬膳も漢方も、もちろん鍼灸も気功も、中国医学の医療関係者はみな最初に中国医学の基礎理論を修得します。その中で もっとも特徴的なのが弁証論治と呼ばれるプロセスです。弁証論治とは、まず患者の症状を観察し患者の話を詳しく聞いて、そしてその次がポイントなんですが、これらの症状や話から患者の病気の根本的な原因を判断するのです。ここで頭をフル回転させるわけです。そしてその根本原因を改善するための方法を考察し、それに適した漢方生薬を組み合わせて漢方薬を処方するのです。このプロセスは、「ハイ、この病気にはこの薬」「エー、検査結果がこうなんで、この薬」あるいは「花粉症には小青竜湯」「生理不順には当帰芍薬散」などとは、ずいぶん違いますね。生理不順にも、その元になる原因が人によって違うわけで、とにかくそこのところから改善しましょう、というのが漢方。同じ生理不順という病気に対しても、ひとりひとり漢方薬の種類が違ってくる、というのが弁証論治の結果なのです。

実際、弁証論治は一仕事なのです。一人の患者のカウンセリングにかなりのエネルギーと時間を必要とするのです。もちろん少しの情報で正確に処方を判断できる天才もいるのでしょうが、漢方専門で予約制にしているところがある理由は、このあたりにあるかもしれません。

漢方薬についてまとめておきましょう。

今年の夏には、中国から輸入されたいわゆるダイエット用健康食品による被害が問題になりました。残念なことに、問題となった商品は漢方薬でも何でもないのに、漢方薬だと思って安心して飲んだ人が多かったようです。本当に残念です。 被害の多くはインターネット上の個人輸入代行業者をとおして商品が購入されたケースでした。われわれ医療従事者からみれば、漢方薬の服用と並行して運動や食事など日常生活習慣の改善をすることなく1ヶ月間に5キロも10キロもやせるなんていうのは不自然です。にもかかわらず、世間には「中国から輸入=漢方薬=安全」という信仰が広く浸透しているために被害が広がりました。
コレ、ちょっと怪しいな、と思ったら、「絶対やせる!」などという宣伝文句を盲目的に信じることなく、とりあえず飲む前に医療関係者や輸入・製造・販売業者に正確な内容を確認するなど、自分のからだを守るための対応をとってください。

ご参考までに、問題となった商品には、N−ニトロソ−フェンフルラミンという化合物が含まれていました。この物質はフェンフルラミンという、副作用が強いために薬事法で使用が禁止されている食欲抑制剤の誘導体で、自然界には存在しない合成化合物です。

漢方薬の原料は天然物ですから、問題の商品は漢方薬ではまったくないわけです。
漢方薬の特徴のひとつは、このように自然界の恵みを原料をしている点です。西洋医薬の多くが石油などから化学合成されて生産されているのに対し、漢方薬の原料は植物や動物・鉱物など自然界に存在しているものです。医食同源といわれるように、食べものと漢方生薬はともに天然物です。

細かいことかもしれませんが、農薬への配慮が必要な場合もあります。食べものの場合でも、農薬や食品添加物、これらは化学合成品ですが、これらの人体への悪影響を憂慮する見方もあります。たとえばアレルギーやがん、神経や皮膚・肝臓への影響などです。

このあたりは個人の考え方や判断によるものですし、また食卓を無農薬・無添加の食品でそろえるとなると、買い物にも時間がかかるし値段も高くなるしで、なかなか難しい面もあります。ただアレルギー疾患の改善のために漢方薬を飲む人も多くいるので、漢方生薬も無農薬栽培品を扱ったほうがいいという考えもあります。私のところもそうですが、そのような方針で無農薬の漢方生薬のみを扱う医療機関も少なからずあると思います。

漢方エキス製剤というものがあります。病院や薬局で見かける漢方の顆粒や錠剤のことです。漢方薬は一般に生薬類を煎じて、つまり各家庭で煮出して作りますが、その過程を工場で行い、さらに熱を加えて乾燥させたものがエキス剤です。インスタントコーヒーや即席だしの素と同じです。エキス剤は服用が簡単で、持ち運び便利です。家庭でいちいち煎じる必要もありません。 ただしインスタントコーヒーの香りや味が本物のコーヒーと比べて劣るのと同じで、漢方エキス剤も生薬が本来もっている薬効や気のパワーが劣ります。ですから軽い病気や旅行中の携帯用にはお勧めできますが、体の中から体質改善をする必要がある場合は、煎じ薬でないと効かないようです。

こんなこともありました。20歳代の女性です。子宮内膜症の治療のためにある診療所に通っており、漢方エキス顆粒を処方しても らって飲み続けていました。しかし1年以上たっても効果はなく、生理痛も軽くはなりませんでした。そこで私のところにカウンセリングに来たのですが、私がみてもその女性に適した処方は、その診療所で処方されていたものと同じでした。そこで同じ処方の漢方薬を煎じ薬で飲んでもらうことにしました。するとその翌月から生理痛が軽くなり始め、ずいぶん喜ばれたこともあります。漢方生薬のもつ威力に改めて感心しました。

最後になりましたが、冒頭のどくだみ茶やハトムギ入りの化粧水は漢方とはいえませんね。漢方薬は、その人ひとりひとりの体質に合わせて処方します。ですので体質や病状に対してそれほど考慮しないで使われてきたどくだみやハトムギは民間薬・民間療法といえるでしょう。そのあたりはまた別の機会にお話しすることにします。


★ 漢方道・四つの必殺技 ★

  1. 「補う」
    足りない元気や潤いは、漢方薬で補いましょう。
  2. 「捨てる」
    体にたまった余分なものは、漢方薬で捨てましょう。
  3. 「サラサラ流す」
    漢方の力で血液や気をサラサラ流し、キレイな体内を維持しましょう。
  4. 「バランスを整える」
    内臓機能のバランス・心身のバランス・ホルモンのバランス・・・漢方の得意技はバランスの調整にあり。


● 今月の美肌薬膳はこれだ! ●

『カブ・ズッキーニ・ハトムギのポタージュ 』

材料(2人分):
タマネギ 1/4個
カブ 大2個
ズッキーニ 1/2本
ハトムギ 25g
鶏がらスープ 2〜3カップ
牛乳 適量
バター、塩こしょう、ナツメグ 少々

作り方:
1. タマネギはあらみじんに切る。
2. カブとズッキーニは皮をむき、薄切りにする。
3. ハトムギはさっと洗う。
4. スープ鍋にバターを溶かし、タマネギを炒める。
5 タマネギが透き通ったらカブ、ズッキーニ、ハトムギを加えて少し炒め、鶏がらスープを入れる。
6. 煮立ったら火を弱め、アクを取りながら、野菜とハトムギが柔らかくなるまで煮る。
7. (6)のあら熱を取り、ミキサーにかける。
8. 鍋に戻して牛乳で好みの濃さにのばし、塩こしょうで味をととのえる。好みでナツメグを振る。

●ハトムギは乾燥した肌に潤いを与えます。ナツメグは生薬名を肉豆?といい、からだを温めて消化不良や下痢に効きます。

ああ、おいしくて体によさそう!

(2002年12月号)


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